Smoke On The Water
ハードロックを聴きながら
スモーク・オン・ザ・ウォータで目覚める
冬の曇り空なのかカーテン越しの部屋が暗い。ホテル電話が鳴る。
『今日泊まりに行っても良い!』
『さっちん?どうしたの!』
私は、泣きながら話し出す親友に一気に目が覚めた。『子供は両親のところに預けに行く。仕事があるから泊まりに行っても良いかな。』
『また新にいちゃんが何かしたの?』
『うん。』と言って、泣き出した。
『今東京だから、今日はホテルに泊まると良い。会社が契約しているホテルに予約しとく。地図は後からメールするね。私は明日帰るから、食事して家においで!母さんには電話しとくから、またしばらくいたら良いよ。』『うん。うん。』
『ごめんね、今日はそばにいてやれなくて。会社は休めないの?休んでホテルで寝ときな。』
私が言うと、さっちんの電話から珍しく泣き声が聞こえた。彼女は我慢強くあまり涙をこぼさない。
『今回は酷かったんだね。』と、私が言っても返事もできないくらい泣いている。いつもだと、強がるのだが今日は泣きたいのだろう。
私は電話を切らず、ラジオに聞き入って泣き止むのをまとうとした。急にハードロックがかかり!
『さっちん!電話代がもったいない!あとでね!明日話は聞くから。』
『うん。もったいないね。』
少し言葉に力が入っていた。安心して電話を切り、ホテルを出た。
頭の中に音楽がなりながら、表参道を歩いた。
交差点に近づくと、真っ直ぐいくか?左に曲がるか?。交渉に行くか?お茶してから考えるか?
東京に来ると立ち寄る喫茶店がある。青山通りに面した小さな喫茶店。中に入ると品良いご夫婦が経営している。
『ブレンドお願いします!』と、伝えると奥様がにっこり笑顔で頷かれる。カウンターに座り本を読むご主人が私を見る。そして、『こんにちは。』と挨拶をすると、『こんにちは。』と、軽く会釈をされる。
まるでこの二人の自宅に招かれているような雰囲気に迷い込む。座り心地の良い馴染んだ革の椅子に座るとさらにご夫婦の空間に巻き込まれる。
香のよい珈琲を飲みながら、目を閉じて30分過ごすと浄化されているような時間の過ごし方ができるスポットにしている。
青山通りの騒音も遮断され、クラシックやバイオリンだけやチェロだけなどの音楽が耳には届く。私は小説を読むことにしている。わざわざこの喫茶店で30分読書をして過ごす。
レジで支払いをしようとしていたら、珍しくご主人が『君も本がお好きのようですね。』と、微笑みながら話しかけてきた。
『日本の小説より何故か海外の本が多いです。繊細な心の描写が海外の本の方が読みやすくて。』
『なるほど。今何多読かな?』
『えっ!華麗なるギャッツビーです。お王道でしょ!恥ずかしい。』
『映画はご覧なりましたか?』
『はい!仕事がファッションなので、自然に海外の映画ばかり。でも、子供の頃から洋画が大好きなんです。わかりやすくて。』
大きな声でご夫婦が笑って、『正直ね。』と、奥様が会話に加わった。
『私たちは結婚一年の新婚なのよ!50年の恋愛がやっと!それまで海外にいたり、追いかけたり、遠距離したり、お互い結婚したり、離婚して再会をしてやっと。』
『君がここにきた頃、ここで彼女に再会した頃なんだよ。』
『そうでしたね。そこにあなたが、こんにちは!って明るく入ってみえたの。まるで、タイムスリップしたみたいに!記念日になりました。』
『えっ?』
『ここは私の母が趣味で始めて、父と僕がコーヒー飲んでたら、美和ちゃんが君のように挨拶をして入ってきたんだ。母の後を美和ちゃんが買い取ってくれたんだよ。』
『あなたのようにコーヒーを飲んで、本を読み過ごしたの。週に1度同じ時間に1時間。懐かしい。いろんな事があったけど、初めて会った時の慎太郎さんを思い出したの。』
『君は時間は大丈夫?仕事の途中だろう。』
『夕方に仕事しても大丈夫です。市場調査していたと報告します。初めてお話しして頂いて、嬉しいのと驚いてて。』と、困惑してると奥様が昔から知っている親戚のような親しみある笑みで、『お腹空いてませんか?パイがあるから紅茶入れますね。』
『美和ちゃんは生活力あるんだよ。イタリアでお金がない時、近所のおばさん達に野菜や小麦粉分けてもらって、おばさんには家事のお礼するんだ。そして、仕事を作っていくんだ。』
『その時にこのパイを作ったの。』
『美味しい。』
『このお店に立ち寄ったのは、週に一回お料理教室に通っていたのよ。花嫁修行なんだけど、ここで捕まったの。どこで繋がるか?役に立つか?』そう言って、また親しみのある笑みをくれた。
『友達が離婚しそうなんです。旦那様が浮気して、話し合いをすると手を上げるんです。』
『お子さんはいらっしゃるの?』
『二人いるんです。可愛い女の子と男の子。』
『この人浮気ばかりして子供作ってね、その為に海外に会社を作ってるの。』
『美和ちゃんが社長さんだよ。洋服やアクセサリーの会社作ってなんとか続いているよ。』
『私もアパレルなんです。バイヤーしています。』
『だと思った。この周辺は多いから。』
『僕は父の後を継ぎたくなくて世界を放浪していたけど、美和ちゃんが後ついて来てくれたから出来たようなもんです。』
『やはりご主人様も経営されているんですね。』
『色々とね!』と言って、ウインクをした。若い時はきっとモテただろうなと感じた。仕草に品があり、おまけにハンサム。よく見ると身長もあり、よくよく見ると、ハーフ?のような?
『母はイギリス人で父が日本人でね、今も母はイギリスで会社経営してキャリアウーマン。父は日本で釣りを楽しんでいます。僕は今、父の後を注いでお仕事をしているけど、美和ちゃんの傍にいることを優先にしている。』
『貴方は此処を会議室にしているからでしょ!』一本取られたような表情をしているご主人様でした。
『美和ちゃんは僕の彼女全員と話をつけて、おまけに会社まで作ってあげて、強い人だよ。』
『浮気には悩まされたはね。もうしないでね。』
私に身の上話をしてくれてるのは、見透かされているように思えた。浮気だけは許さないと、恋愛に踏み込めない。結婚にも。人生を通じて一人の人を愛せるって素敵だなと心から感じる御夫婦。
『愛するって強い力が必要なんですね。私はまだまだです。』と、私が言ったら、奥様が笑みを浮かべて『悩んでいるように見えたから、おせっかいをしたくなったの。』
『君のことを好きみたいだよ。美和ちゃんは、随分前から来てくれてる君が、話さないけど礼儀正しい挨拶だけなんだけど、想像なんだが今日は迷っているな?とか、元気ないなって、いつも心配をしてたよ。』
『そんなに私のことを!嬉しい!感激です。』
『良かった。笑顔が見れて。愛するって体力いるし、お金もいる。私は、この人を愛しているから仕事が出来たの。愛しているから稼いだのよ。』
『私は会社のために稼いでいるのかも?いつか愛する人のために仕事をしたい。』
『僕ヒモじゃないからね!』
『うける!』と、私が言うとご夫婦も大笑いしてくれた。
『私はこの人に惚れているの!そしてね、憎めないの。浮気されると悲しくて泣いた時もあるわよ。でも、泣いていても問題を解決しないといけないから一晩寝ると忘れていた事が多いの。稼がなきゃ!』
『僕はヒモじゃなからね。』
『起業するって資本がないと始まらないと思っていた。』
『親にも助けてもらったわよ。子供達は日本で育てたくて離れていた時もあるの。親がこれでしょ。しっかりしてるわよ。』と、笑みを浮かべて二人は見つめ合う。
『浮気する彼女は外国人で気性が激しいのよ。何時もディープパープル聴いて気合い入れて挑んでたの!』
『うわ!!』
『懲りないのよ!源氏物語のように七人の恋人が欲しいのよ。バカよね。』
『我儘な旦那様ですね。奥様は?藤壺と紫の上になりますね!』
『よくお分かり!だから我儘で大変なのよ。惚れたから面倒見なきゃね!』
『私は惚れてなのかも。』
『僕はダメ男じゃないからね!』と言って、『働いていますよ。こう見えても会社の社長さんなんだよ。』
『お尻に火がついてやっと、お仕事をしていますよ。』
『僕の友達がアパレルの社長なんだけど、この辺知り合いばかりだよ。』
『ルナーさん?とか?』
『友達!友達!一番仲が良い!』
『今からルナーへ行くんです。』
『じゃ!行ってらっしゃい!いつでも遊びにおいでね。』
ルナーに行き商談してホテルに戻ってきた。そして、友達に電話をする。ご夫婦との出会いで、限りない愛の形を知った。
友達にはなんと言おう?
『さっちん!落ち着いた?今日は何していたの?』
『ずっと寝てた。こんなに沢山寝れたのは独身以来。』
『良かった。明日話そうね。』
『ホテルに来てね。』
『了解。じゃ、明日早いから寝るね。のんびり過ごしてね。』
先ずは自分の事をちゃんとしないと相談を聞くことが出来ない。気合を入れる為にハードロックを聴きながらバスタブにお湯を入れた。
次の日、福岡の帰路に着き、タクシーでホテルに向かった。ロビーで待つとさっちんが笑顔できた。『良かった。笑顔見れてホッとした。博多駅で食べよう!歩きながら話そうか!』
『貴方の顔を見るとお腹空いたよ。』
『貴方より不幸な私を見ると嬉しいでしょ。』『その力は何処から出てくるの?』『わからない。それより、今回は浮気?』友達の顔を見ると、晴々としている。
『謝ってきたの?』
『ううん!そうじゃないの。沢山寝たらね、馬鹿馬鹿しくなって。浮気されたけど、怒る気持ちもおさまった。しばらく実家に戻って今後のことも考える。』
『ん?離婚?』
『違う違う!パパの会社を継ぐよ。金銭面で苦しいのも喧嘩の原因だから、経済的に立て直す事を考える。』
『良いな!羨ましいよ!』
『裁判、まだまだ終わらないの?』
『裁判で勝ってもお金は戻らないから。私も何か始めようかな!』
『あら!応援するわよ。』
『実はね、東京で素敵なご夫婦に出逢って、さっちんの相談したの。離婚したらどうしょうと心配していて、顔に出ていたのか逆に心配して頂いて。逞しい奥様でね!ご主人の浮気相手に子供さんが出来ると面倒をみてあげるの。それも、会社を作ってあげるの。』
『さすが東京ね!』『そこがまたお洒落で外国なの!』『お洒落!』『でしょ!東京に行くと美味しいコーヒーを飲む品の良いお店で、居心地がよくて大好きなの。初めて話したんだけど、雰囲気も素敵なご夫婦でご主人に惚れてる奥様が凄すぎて!』
『惚れてるんだ!私は惚れてないな!』
『私も!まだ惚れることさえわからない』
『強い人なんだね!』
『外見はそう見えない。常に浮気して子供作って、気性が激しい女性相手に稼がなきゃって!起業して忙しかったみたい。今のさっちんに近いね。』『今は離婚は考えない。相手の女の事も考えない事にした。それに、私が激しいから彼も激しくなってるのもわかるの。だからブツのよ。』
『さっちんが落ち着いたのなら安心した。一晩で成長したね!』
『よく寝たもん!貴方みてたら裁判はするもんじゃない!って、側で見てたら勉強になった。』
『私は離婚で裁判してませんよ。さ!食べて帰ろ!』と、いつものさっちんの落ち着いた表情を見て安心した。
ハードロック
Smoke On The Water
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